「教育現場にトレーナーを!」陸上競技を通じて社会変革を目指す女子高校生の挑戦

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2015.12.23
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Photo:所蔵:リディラバ

 早川優香、18歳。
 神奈川県内の陸上クラブチーム「Happiness AC」で競技活動に打ち込む高校生の彼女には大きな夢がある。それは「教育現場にスポーツトレーナーとして就職する」ことだ。今まで公立学校に就職したトレーナーは一人もいない。でも、だからこそ、その「第一走者」となるために、クラブチームで自分の陸上技術の向上に励みながら、理学療法士をめざし、奮闘中だ。



――クラブチームで活動をはじめたきっかけについて教えてください
 もともと部活動で陸上部をしていましたが、たまたまTwitterやFacebookで会員募集をしているのを見たことがきっかけです。「根性論」ではなない技術的な指導をするということがネットで評判になっていて、活動も神奈川県内だし行ってみようかなということで足を運びました。

――実際に行ってみてどうでしたか?
 陸上競技の比較的強い学校にいたので、体力作りなどの技術的な指導内容は同じだったのですが、指導者が一人ひとりを見てくれることは良いと思いました。

――クラブチームに入ってから自分が変わったと思うことは?
 陸上部の方では、シーズン中の練習メニューは自分で作るようになっていたので、クラブチームの代表と相談できるようになり、「自分の走りについて考える」ことが足りていなかったことを自覚することができました。メニューを組み立て、走りも変わってタイムも上がってきたという感じです。部活に比べてきめ細やかだと感じました。
 部活動の主顧問が「走り幅跳び」や「三段跳び」の選手だったので、短距離のことをあまりよくわからなくて、その人に相談しても・・・という感じでした。

――ずばり、部活動制度は何が問題だと思いますか?
 中学から高校に進学するとき、学校を選ぶことができますよね。「陸上をやりたい」と考えたら、学校を選ぶというより部を選ぶという感覚の方が近いのではないでしょうか。部活動体験の日や、中学と高校の先生につながりがあったり、先輩がいれば練習に参加させてもらうこともできたりしますが、それだけじゃどういう練習をしているか、部活の雰囲気がどうとか、全部はわかりません。
 あとは「指導者を選べない」ことも大きいです。その先生だから教わりたくても、公立の場合は1年経ったら異動してしまうかもしれません。

――部活動は「教育の仕組み」の中にあります。そこではできることは限られると思うんです。「クラブチームじゃなきゃできなかった!」ということは何がありますか?
 陸上は、種目が選べます。短距離、長距離、跳ぶ種目、投げる種目・・・。部活動だと、顧問の先生の「これやれ」というのが強いのですが、クラブチームだと「私これやってみる!」と言って選ぶ方が強いなあと。あと、クラブチームは陸上の知識を持っている人が多いので、自分に何が合っているかのアドバイスをしてくれます。部活動の場合、顧問がもともと長距離をやっている人だから「長距離推し」だったりするし、生徒の要望がまったく通らずシャットアウトされる感じがあります。

――今、障がいのある子どもたちの支援活動もやっているんですよね。始めたきっかけはなんですか?
 私は理学療法士を目指しているんですが、障害をお持ちの方のサポートも理学療法士の仕事の一つなんです。ボランティアをはじめたきっかけは、クラブチームでの練習をしている際に、障がい者の団体が競技場の隣で練習をしていたことです。家に帰ってネットで検索してみたところ、団体を発見。ボランティアを募集しているというので、連絡をして足を運びました。
 活動内容は、練習の指導というよりは「みんなで陸上を楽しむ」というものです。30人選手がいて、それぞれが知的障がいや身体障がいを持っています。自身の障がいによって、運動のできる量に違いがあるので、体力レベルによってコースが分かれています。とにかく記録を求めるよりは、「体を動かして楽しむこと」が一番の目的なので。
 身体障がいをお持ちの方に興味を持ってはじめたのですが、知的障がいのある方たちもとても素直で、自分まで純粋な気分で陸上に打ち込めて楽しいです。

――ところで、そもそも理学療法士ってなんですか?
 想像しやすいのは、「ケガして病院でリハビリする時に横っちょに立って指導してくれる人」です。
 今、理学療法士が働く領域としては、病院や高齢者福祉施設、障がい者施設やスポーツの現場など多岐にわたっています。病院のリハビリルームでの活動だけでなく「訪問リハビリ」をやったり、寝たきり状態の高齢者の隣について取り組むような形もあります。


――理学療法士となって実現したいことは?
 公立の学校にスポーツトレーナーとして就職することです。


――「教育現場にトレーナーを広めたい」という目標と、理学療法士はどこが一致するのですか?
 実は日本ではトレーナーになるために絶対に必要な資格はないんです。独学で骨格や筋肉について学んだりして身体のことを知ったり、陸上の本を読んだりして知識を付けて「私はトレーナーだ」と名乗ったらもうなれちゃうんですね。日本はそこが問題なのです。
 私はケガを治すことより、身体の動きをもっとよくしたいというのに興味があり、動作分析をしたいなと言う思いから理学療法士を選びました。

――学校にスポーツトレーナーというのはあまり聞きません
 公立校はゼロです。嘱託コーチはあるんですが、給料が出ているというよりほとんどボランティア状態。お金を貰わない形で自分が出身の学校に教えに行ったりとか。嘱託コーチの制度自体は公立校はどこにでもあるのですが、それにかけられる予算は限られているんです。でも、学校の先生だって、「これまで陸上をやったことなんてないのに陸上部の顧問になっちゃった」ってこともあるじゃないですか。そういうことを考えると、先生方も選手にけがはさせたくないので、安全面でもいてくれたほうがいいはずです。

――大阪市で、部活動を民間委託すると言う動きがあります。これが全国に広まると変わることってあると思いますか?
 橋下市長の発言したことですよね。教員が指導するより、民間がやった方が教育レベルが上がるという考えでしたから、甘いと思います。スポーツについて物凄く勉強している先生もいらっしゃるので、単に民間にすることで競技レベルが上がるというものでもないと思うし、むしろ下がることもあるのではないかと思います。民間委託をするのであれば、委託先の質によると思います。また、大阪にはたくさんの学校あるので、すべてに指導者をつけることは無理でしょう。指導者の人材育成をしてからの話だと思います。

 彼女は目をキラキラさせながら、「今」と「これからの目標」について楽しそうに話し続けていた。
 SNSを通じて民間のスポーツ活動を知り、そこでの充実した体験で自分の競技レベルを上達させ、進路を模索していくようなケースは、今後もっと増えていくだろう。
 従来型の部活動の仕組みでは、やはり学校教育の延長という考えが強いために、個々の生徒の特性にあわせたきめ細やかで適切な指導というのは難しい。この現状を根本的に変える動きはいまだ存在していない。
 でも、アツい気持ちをもった彼女がもしもトレーナーになることができれば、「陸上をすることの楽しさ」の本質に気づく生徒も増えるかもしれない。既存の仕組みになじめなくてくじけてしまうことなく、自分を高めていく子がきっとたくさん出てきたら、部活動の世界は今よりもっと楽しくなるはず。そんな希望を感じるインタビューだった。

 

 


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