安部敏樹氏(以下:安部):今回の安保法案やSEALDsの動向を見てみて思うのは「変える順番をみんな決めていないよね」ということ。政権与党は法案を通すことを念頭に置きながら、現実的に戦略を立てて、動いてますよね。一方で、社会問題を提起する人たちというのは、まずはここから変えた後に、次にここを変えて最終的にゴールに行くっていう長いロードマップと戦略を持っている人が少ないと思っていて。これは、SEALDsを見ていても同じようなところがあるなと思ったんですよね。
原田謙介氏(以下:原田):どこから変えていけばいいと思いました?
安部:まさに「輿論(ヨロン)と世論(セロン)」という本があるんですけれども、僕が一番問題意識として持っているのは、「世論」と「輿論」の混同。会場の皆さん、この違いわかりますか?
ざっくり言うと、「社会全体の意思決定に対して熟議して、意思決定を行っていきますよ」ということを、元々「輿論」と言いました。一方で、「世界」の「世」と書いて「論」と書く、「世論(セロン)」の方は、それはある種の付和雷同性が強くって、マスメディアが作ったマスコミュニケーションの賛同の先にある、一見、世の中の意見のように見える意見のことです。で、戦前はこの「輿論」と「世論」がしっかりとわかれていたって議論があって、ただ、第二次大戦中を含めて、日本は「世論」と「輿論」が合体しちゃったんだよね。日本でボトルネックになっているのは、国民が正しい輿論を作らない国民になっているということだと僕は思ってて。
つまり、ちゃんと議論をして社会的な論点について、お互い健全なアイデアを出しながらいいものを作っていく意思決定をしましょうとうものではなくて、マスコミュニケーションをベースにした「みんなが言ってるから、俺もそれでいい」みたいな形での意思決定になっている。
原田:それも多分あるんだろうけど、今回のSEALDsにも通じると思うんですけど、社会運動をする人たちは単純な世論調査だけを見て自分と同じくらい賛成派がいるんだと思っちゃうから、世の中全体の総意を取り違えるというような気がして。
安部:まさに世論はマスコミュニケーションが生んだものと考えるなら、そういう意味では問題性は非常に高いんだけれども、さっきの優先順位の話でいえば、時間がかかるのかもしれないけれど、正しい輿論を作れる民衆を作る、民意を高めるための議論の場を作ることが中長期的には一番の近道で、最終的な到達点として設定しなければいけないことなのではないかな?
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