塀の中の人権を思う

-日常から最も遠い「刑務所」という場所-
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世の中から隔絶された「刑務所」という閉鎖空間。
私たちはどれほど、塀の向こう側に住む彼らのことを知っているだろうか。
この記事の読了時間:約6分
2016.07.01
Rou2
Photo:AKIJAZz - Fernando Branquinho(http://free-images.gatag.net/2012/03/02/040000.html)

 

 あなたは、刑務所についてどれほどのことを知っているだろうか。普通の生活を送っていれば、おそらく関わることがないであろう施設、刑務所。おそらく、刑務所の中を覗いたことなどないという方が大半だろう。

 

 平成26年度時点で、日本には52,860人の受刑者がいたとされている[1]。日本には、刑務所が62か所、少年刑務所が7か所、拘置所が8か所存在する。左記の本所の下には支所があり、全て合わせると全国で188か所の刑事施設が存在することになる[2]。

 

 そのうちの一つである静岡刑務所は、2016年6月24日、受刑者と不適切な接し方をしたとして男性看守部長を懲戒処分にしたと発表した。同刑務所の発表によると、看守部長は受刑者に芸能人の物まねを強いる、自らがつけた不適切なあだ名で呼ぶなどの指導の名を借りた「いじめ」を常態化させていたという。受刑者からの申し出により事態が発覚した。

 

 受刑者が虐げられる事件は、過去にも度々起こってきた。2013年3月には、札幌刑務所は前処遇部長の男性を受刑者に暴行を働いた容疑で書類送検したと発表した。隠蔽のため虚偽の報告書を作成したとして、他4人も同時に書類送検された。こちらは、法務省矯正局の情報提供から発覚した。

 

 また、2007年には、徳島刑務所の医務課長が、診察と称して受刑者の肛門に指を突っ込むなどの不要かつ診察の範囲を超えた虐待行為を行っていたことが発覚した。当時、受刑者が診察内容に文句を漏らせば、懲罰室に連れていかれたという。この虐待行為は受刑者の不満を募らせ、最後には受刑者の暴動を起こすという形で世の明るみに出された。

 

 このようなニュースになっている事件をなぞるだけでも、多くの受刑者の人道被害が見受けられる。刑務官による暴行事件が発生してしまう原因の一つに、心理的な要因があることが明らかにされている。1971年にスタンフォード大学で行われた有名な心理学実験に、「スタンフォード監獄実験」がある。

 

 この実験では、普通の大学生から選ばれた21人の被験者を看守役と受刑者役に分け、刑務所に近い設備を作って各自の役割を演じさせ、生活させた。すると、時間経過とともに看守役はより看守らしく、受刑者役はより受刑者らしく振舞う傾向があると明らかになった。看守役の行いは次第にエスカレートし、非人道的な行為や暴力が横行するようになったことから、当初実施期間2週間を予定していた実験は6日間で中止。刑務官の役目を与えられた普通の学生は、与えらえた役割によって次第に理性の歯止めが利かなくなり、暴走してしまう結果となった。

 

 こうした現象は、より与えられる役割が明らかで期間の長い実際の刑務所内でも発生しうると想定される。そのため、心理学的な側面から見ると、受刑者の人権は脅かされてしまいやすい傾向にあると考えられる。受刑者の人権が見直されるようになったのは、2001年の名古屋刑務所事件が契機である。

 

 名古屋刑務所事件とは、2001から2002年にかけて、名古屋刑務所内で刑務官らが集団暴行を行い、受刑者3名を死傷させた事件である。2001年、当時の副看守長らが受刑者の肛門に消防用ホースで放水したことで内臓に傷を負わせ受刑者を死亡させた「名古屋刑務所受刑者放水死事件」が発生し、つづく2002年には、看守らが革手錠付きベルトで受刑者の腹部を締め上げ、内臓破裂で受刑者2人を死傷させた「名古屋刑務所革手錠事件」が発生した。この事件が報道されて全国に明るみになったことにより、虚偽報告に代表される刑務所の隠蔽体質と、受刑者の悲惨な人権状況が明らかになった。

 

 それまでは、明治41年に制定された「監獄法」に基づいて刑務所内は規制されてきたが、これは被収容者の権利に関する規定が曖昧だったり、処遇に関しての透明性が著しく低かったりと多くの問題を孕んでいた。名古屋刑務所事件を契機として、2005年に「受刑者処遇法」[3]が制定されることになった。受刑者処遇法は、刑事収容施設の適正な管理運営を図るとともに、受刑者の人権を尊重すること等を目的としている。本法律では、受刑者の権利義務や職員の権限を明確化、刑務所運営の透明化を図るために民間人で構成される刑事施設視察委員会の設置など、受刑者の処遇を改善するための諸方策が盛り込まれた。

 

 こうして、法的には受刑者の人権保護策が打たれたわけであるが、2006年の受刑者処遇法施行後もまだまだ受刑者の人権を脅かす事件は発生していることを鑑みると、完全に受刑者の人権が保障された状況とは言い難いのが実情であろう。依然として刑務所内部がブラックボックス化しており、内情を知るのが困難であることもまた、刑務所内の人権保障の難しさに拍車をかける。

 

 このような状況の打破に寄与すると考えられる取り組みの一つが、東京都にある日本最大級の刑務所である府中刑務所が行っている「府中刑務所文化祭」である。昭和50年から毎年文化の日に開催されており、地域の恒例行事として定着しているという。文化祭では、実際の受刑者が食べる食事を提供しており、間接的に受刑者の食生活が見て取れる。また、刑務所の内部を一部見学できる「プリズンアドベンチャーツアー」という企画も行っているという。参加者にとっては、刑務所への理解を深めて関心を持つ事の出来る機会となるだろう。2014年の開催時には、2万人以上が参加したという。

 

 また、獄中の受刑者の人権向上に取り組む団体に「NPO法人監獄人権センター」がある。同団体は、 拘禁施設内の人権侵害の事実を調査・公表したり、支援が必要な状態にある受刑者へ対して個別的な救済を図る等の活動を行っている。2007年の徳島刑務所事件の際には、受刑者がどのような状況に置かれていたかを告発しており、事件の真相解明の一翼を担っていたという。現在も、受刑者やその家族などから人権問題に関する相談が多く寄せられている。

 

 NPO法人監獄人権センターはこう主張する。

 「塀の中にも、人権があります。」

 果たして私たちの中のどれほどが、これまでに塀の中の人権に想いを馳せたことがあっただろうか。上述のような取り組みは少なからずあるにしろ、刑務所内で何か事件が起きなければ刑務所の実態を知る機会は少ない。塀の中で執行される死刑制度についても度々議論がなされる日本に住む私たちは、「塀の中の人権」について無関心ではいられないはずである。

 

 なお、本記事はすべての刑務所の実態に言及しているものではないことを付しておく。本記事ではごく一部の刑務官の不祥事問題を取り上げたが、逆に受刑者が刑務官に暴行を働いた事例も報告されている。刑務所はその小さな敷地の内部に多くの根深い問題を抱えている場所であり、一つの記事内で多面的な問題の全てを明らかにするのは非常に困難である。本記事で述べたことが刑務所問題の全容ではないことに留意願いたい。

 

[1]法務省『平成27年版犯罪白書』(最終閲覧日:2016年7月1日)http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/62/nfm/mokuji.html
[2]法務省HP(最終閲覧日:2016年7月1日)http://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei_kyouse03.html
[3]正式名称は「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律」。2006年の法改正に伴い、「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」(刑事収容施設法)に改題された。

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