ホームレス問題は、単なる所得の問題ではない。確かに、彼らが住居を失った背景には所得の著しい低下があるだろう。しかし、彼らが路上生活のような過酷な暮らしから脱することができない背景には、「心の貧困」とでもいうべき問題が存在している。
想像してみてほしい。もし所得がなく、それゆえ体を清潔に保つことさえ困難な状況に陥ったとしたら。もしかしたら、外へ出るにも人と話をするにも、清潔感がない事をなぜか後ろめたく感じ、他の人々との距離があるように感じてしまうかもしれない。あるいは、自分の不潔さが気にかかるあまり、自分はまるで社会の一員ではないかのような気持ちにってしまうかもしれない。
貧困状態が続くと、このようないわば心の貧困状態が引き起こされ、まるで自身が無価値であるかのような錯覚に陥るのだという。ホームレス問題は確かに所得の問題に端を発することが多いが、何故ホームレスから脱することができないかを考えると、彼らの心の貧困問題にも原因を見出すことができる。
アメリカミズーリ州のセントルイスで、そんな問題に立ち向かうべくある「トラック」が誕生し、走り回っている。「シャワー・トゥー・ザ・ピープル」というクラウドファンディングプロジェクトにより、シャワーを浴びる機会を持たないホームレスにシャワーを届ける、シャワー搭載型の「シャワートラック」が運営されるようになったのである。
移動が可能なので、固定式のシャワーに比べてより広い範囲で人々にシャワーを届けることができる。トラックの内部には2台のシャワーと洗面所が完備されており、ホームレスたちは汚れを洗い落として心の貧困の穴を埋めるのだという。現在では、1日に約60人のホームレスにシャワーを浴びる機会を提供している。
このプロジェクトの発起人であるジェイク・オースティンがシャワートラックを思いついた背景には、既存のホームレス支援策の不十分さがあったという。実際、かつてオースティンがホームレス支援策の一環として石鹸やシャンプーを配っていた際、あるホームレスに「もらっても使う機会がない」と言われ、受け取りを断られてしまったことがあったという。
ホームレス支援策は、当事者であるホームレスの必要に即したものでなければ意味がない。日本でもシャワーバスと同様に、衛生環境の支援を行うことでホームレスの要望に応えようとしている団体がある。
新宿に拠点を構える「NPO新宿」は、週に2回ホームレスを対象にシャワーの無料開放を行っている。銭湯など公共の衛生施設に行くお金すら惜しい人々にとっては、シャワー支援の存在は救いとなる。単にシャワーで汚れを落とすだけではなく、清潔感とともに心の貧困を解消したり、シャワーを浴びに来ることで施設の人と交流が生まれて、ホームレスから脱するための職探しに繋がることもあるのだという。
ホームレス支援というと、どうしても目に見えやすい所得の問題を解消する支援策に目が行きがちである。しかし、ホームレスに陥ってから脱するまでの一連の流れを考えると、所得の問題と同様に心の貧困の解消にも焦点があてられるべきである。心の貧困が解消されなければ、そもそもホームレス状態から脱しようという強い意思が生まれにくい。彼らの生活を慮り、必要な支援とは何なのか、考えてみることが大切だろう。