ぶっちゃけ18歳選挙ってどうだったの?

原田謙介(YouthCreate代表)×安部敏樹(リディラバ代表)特別対談
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2016.08.23

2016年7月31日(日)

 

この夏の参院選での大きな変化として、選挙権年齢が18歳以下へと引き下げられました。当該引き下げに対応し、文部科学省・総務省は高等学校等の生徒向けに副読本「私たちが拓く日本の未来-有権者として求められる力を身に付けるために-」を作成・公開し、当教材は多くの高等学校等の教育現場において活用されました。今回は、副教材の作成協力者の一人である、NPO法人YouthCreate代表の原田謙介さんに、18歳選挙に絡めて起こった社会の変化について、更にはより広く若者向けの政治に関連して、リディラバ代表の安部敏樹と対談してもらいました。

 

安部:対談よろしくお願いします。今回は18歳選挙について、またそれに向けて進んでいった主権者教育について、更には教育と政治の関係等幅広いテーマで色々とディスカッションしたいと思います。

まずは、ストレートに、今回の18歳選挙についてはどういった変化として捉えてますか?

 

原田:ここ1年の(18歳選挙を取り巻く)変化は予想以上に大きかった、特に大きく変わったのは学校現場ですね。例えば文科省が調べているところだと学校でも選挙・政治に関する授業やってますかというと、かなりの学校が「はい」と答えています。文科省が各都道府県の教育委員会を経由してそういった教育をやれと言っていることも背景ですけど、まさかこんなに短期間で実際にそのような教育が(学校の中で)実施された点は予想以上でした。

 

安部:実際にどういった内容かはわからないけれど、ひとまずそういった政治に関する教育をやっている学校の数は増えた、と。

 

原田:増えました。やってる内容も多少は調査結果に載っていて、例えば模擬選挙やってますとか、(授業に)外部の選管呼んでますとか、いろいろありますけど、ここまで浸透するとは思っていなかったですね。

 

安部:内容面についてはどう見てますか?

 

原田:内容面は正直まだまだ十分なものとは思ってないです。とは言え、今までは基本的にはゼロだったことを考えると進歩かなと思います。(我々も)そういう教育受けてきたことないでしょ?

 

安部:全然無い。まあ私の場合そもそもあんまり学校通ってなかったからわかんないけど(笑)。

 

原田:ややこしいな(笑)。今までの教育では、国会議員の人数が何人かとかしか教えてきてないから、結局その後実際の選挙の時に何やればいいとか、普段から政治に関わるためにどういうことをやればいいとかは習ってないんですよね。それをやるようになっただけで大きな進歩かなと。

あと、政治との繋がりで言うと、教育委員会と学校現場の繋がりが強くなって、選挙管理委員会が学校現場にかなり入るようになったのも大きな変化ですね。

 

安部:それはポジティブな変化なんですか?

 

原田:とりあえずポジティブと捉えてます。最初のスタートとしては。

自分が書いた副読本はそもそも文科省と総務省が組んでやっているプロジェクトという点でも異例だと思います。2つの省庁が半分ずつ推薦者を出して委員会を組んで、数年も残るアウトプットを作るっていうのは結構な変化だし、(18歳選挙の)スタートの中でこういう形で教育と政治が近づいているのはポジティブな変化じゃないですかね。

(副読本「私たちが拓く日本の未来-有権者として求められる力を身に付けるために-」。参照元:文部科学省

http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/shukensha/1362349.htm)

 

安部:その変化の理由ってなんですかね?もちろん、今回の参議院選挙からルールが変わったからそれに合わせてっていうのは大きいだろうけど、他の要因はあったりしますか。

 

原田:18歳選挙解禁になったタイミングで一気に拡げていかないと来年以降にじわじわ拡がることは考えられにくい。だから(国側としても)形だけでもこういったものをやるというのを、スピーディーにやり切る形で見せたかったんじゃないですかね。

例えば(2009年度に)裁判員制度が始まった時も法教育やりましょうという声はでましたけど、実際学校現場に法教育は全然出てきてないでしょ。もちろん、高校生がいきなり裁判員になることはないけど、今回の18歳選挙解禁だと実際に高校生が投票できちゃうわけだし、とりあえずやるからには学校も行政も一気に拡げたかったんだと思います。

学校の先生と話せばわかりますけど、やる気のある先生は取っ掛かりさえあればどんどん独自で進められる。だから主権者教育についても、最初にYouthCreateなり選挙管理委員会なりが教育現場に入っていって、こんな事例がありますとか主権者教育ってこういうものですよっていうのを発表していけば、やる気のある先生がどんどん現場で主権者教育を広げてくれるので、その点は特にポジティブな変化かなと思います。

 

安部:なるほど。今回の18歳への選挙権引き下げは、投票率やその結果うんぬんというより、主権者教育が浸透していったという意味では良かったということなのかもしれないですね。今までは有権者になるまで高校卒業から2年間猶予があるから、若者の政治的関心や投票率の低さについて学校側も責任逃れができたけど、18歳で投票できるようになれば、言い逃れもできないし、学校もやる気になりますよね。それは非常に大きい変化かもしれない。

原田謙介(はらだ・けんすけ)

NPO法人YouthCreate代表理事/岡山大学講師/グリーンバード中野チーム代表

1986年岡山県生まれ、東京大学法学部卒。大学卒業後NPO法人YouthCreateを設立。文科省・総務省が昨秋全高校生に配布した「私たちが拓く日本の未来-有権者として求められる力を身に付けるために-」の執筆者。

(写真:豊田健、以下同)

教育と「政治的中立性」

安部:少し話題を変えてみて、18歳選挙に際して主権者教育が浸透したっていう話がありましたけど、教育と政治的中立性っていう議論も話題になる機会が増えたと思います。その点についてはどう思ってますか。

 

原田:そもそも中立なんてものは無いじゃないですか。副読本を読んでくれたらわかることなんですが、あの本をつくるときに一番議論になったのは、政治的中立ってことをどこまで書くのかってことでした。やっぱり文科省や国全体の立場としては、先生は政治的に中立じゃないといけないっていうのがあります。わかりやすく言うと、先生は自分がどの党に投票しますとか言っちゃいけないっていうことだし、それは分かります。でも、例えば少し突っ込んだ話として、憲法の話をするときに新聞を見せるとして、そのときに朝日と読売を見せるべきなのか、産経を見せるべきなのかとか、考えだしたらいくらでも細かいケースは出てくるわけだし、判断もできないと思います。

更に言うと、自分も含め執筆者の多くの意見としては、先生は中立的じゃなくてもいいと思ってます。自分の意見は言っていいと思ってる。先生が生徒にとって、自分自身の考えをちゃんと持っている一番身近なロールモデルとして機能すべきだと思います。

安部:なるほど。確かにそれはその通りですね。

 

原田:もちろん先生が自分の考えを押し付けちゃいけないし、AかBかの政治的な選択がある場合、先生はAが良いと思うけれどもBが良いという意見もあるよ、という紹介の仕方とか工夫はするべきだと思いますけど、そんな形で意見を持つことを示す機会すらないのは良くない状況だと思います。

そのなかで政治的中立っていう定義できないものを、厳格に守らせようと外部から圧力をかけるのは危ういことですよね。

 

安部:確かに。しかもそれは自民党が出してた教育現場の調査みたいに、自分の党に都合のいい教育を推奨するようなものに政治的中立っていう言葉が使われてる気がしますね。

 

原田:やっぱり外部から判断したらダメだと思いますね、教育現場のことを。そこは学校の先生を信頼するしか無いと思います。例えば、1年くらい生徒-先生で付き合いがあるからこそ、こんなことまで言えちゃうっていう内容だって先生ごとにあるわけじゃないですか。だから一部の授業の一部の発言をとりあげて、政治的中立がどうこうって議論しようとする発想がナンセンス。もし先生が中立的な授業やってますかっていうことを問われた時に、自信を持って私はこういう配慮のうえ、中立性を心がけていると答えられれば何も問題無いと思います。

とはいえ、あまり表沙汰にはなってないけど、一部の学校でとっても偏った授業があったとは聞いてるし、そういう事例に関しては当然ダメなんですけど、そういうダメな事例こそダメな事例としてもっと公表されたほうが良いと思います。文科省が政治的中立を担う中で、どう見ても逸脱した事例をちゃんと発信すべきなんじゃないですかね。

 

教育と行政の関係

安部:18歳選挙になって政治と教育が近づいている中、実は行政と教育も近づいていると思うんです。教育長って実質的に政治任用に近づいているじゃないですか。つまり学校の現場と政治だけじゃなくて、学校運営と政治も近づいていると言えると思いますが、そういう観点から見た時に良いところとリスクと感じるところについてはどう思いますか?

 

原田:すごく良かったのが、教育長も含めて、主権者教育の必要性を上が認めたことなんです。文科省から各都道府県教委まで。その流れがなかったら主権者教育は始まらなかったし良かったと思います。

 

安部:なるほどね。さっき言ってたように主権者教育が広まった背景には、教育と行政が近づき、教育現場へのガバナンスが利くようになったことがあると。それは面白い話ですね。

 

原田:さっき教育長が政治任用って言ってたのは、要は教育長が首長の意向によって変わるってことですよね。それを良いと捉えるかっていうと私はそんなに気にしてないですね。どっちかで言うと地方創生とかっていう議論の文脈だと思います。

 

安部:全くその通りで、リディラバは地方創生の仕事をしてますけど、一番面白くなったのは、教育を地域全体の戦略の中で位置づけるようになったことなんです。これまでは教育は教育の世界の中だけで置いといて、地域の全体の戦略の中に入ってこなかった。一方今は地域を学ぶ教育とかが増えてきたように、地域全体の戦略からみた時に18歳-24歳っていう一番人口流出が多い年齢層に対して、将来戻ってくる動機づけや原体験を教育期間に仕込むっていうのは、行政と政治が近づく中でのポジティブな効果なんだと思いますね。

 

原田:教育と行政とが結びついちゃだめっていうのは、よっぽどイデオロギー的な話に偏ったら嫌だなというところと、もう一つは、小中学生なら違うかもしれないけど、高校生とかを世の中が舐めすぎとも思います。多少先生がカリキュラムを変えたりなんかしても高校生には簡単には響かない。例えば我々くらいの年代って高校の時の教育だと、日本は第二次世界大戦でひどいことしたんですよねっていう前提の史観論が多かったし、そういうものを読まされてきた私たちの頭は基本そっちに一時的には寄っていた。でもその後大人になって、色んな所で情報を得たりする中で、日本はもちろんひどいこともやってたけどそうじゃないこともやってたっていうことを勉強していくわけじゃないですか。そういう意味でも、あまり高校生への教育内容の細部に過敏にならなくてもいいんじゃないかなと思っています。

 

安部:なるほど。一方で、我々みたいに、ある種教育を専門にしている仕事をしている人には当たり前にこういった感覚はあるけど、多くの人は政治的な話とかは学校教育の中で完結していて、日本は全て悪かったで終わってしまっている人も多いんじゃないですか。

 

原田:それは議論する力、情報をきちんと咀嚼して解釈しようとする力を養うことと並行して考えるべきだと思いますね。主権者教育が広がっていくことでもう一つ良いことを挙げると、いわゆる主権者教育っていうものは選挙に行こうとか、投票の仕方とかだけを学ぶものじゃないってことです。理想論であって、現状はまだそこまで到達してないところがほとんどですけど。

1人の主役として、主権者として、副読本にも書いてるように、議論の仕方を養うとか、問題解決能力を身につけるとか、社会課題の解決に積極的に関わる姿勢を養うとか、そういうことをするのが主権者教育の目的なんです。自分で考えて主体的に行動する生徒を育てれば、大人や先生が何言おうが、その内容を一旦客観的に考えるようになります。そういったことができれば、先生の発言にみんながなびくような事態にはならないと思うんです。そういうアクティブラーニングが始まっている潮流の中でも、こういった主権者教育の推進で、議論する能力や問題解決能力の向上が図られていることは画期的だと思います。

極端な例で、中国みたいにある種の反日教育を仕込んでいたって、日本のこと好きな中国の人だってたくさんいるわけでしょ。必ずしも教育現場での指導内容だけで人格形成を議論しなくても良いのかなと。

 

安部:それはそのとおりですね。議論する力があれば、読んで得る情報とかをぱっと鵜呑みにせず考えられるから、教育に政治的要素が増えても自分で判断できるようになりますよね。

更に言うと、そこには結構世代間で認識のズレがある気がしますね。例えば上の世代とか、政党とかで教育と政治は距離を置かないといけないって意思決定をしてきた人は、アクティブラーニングっていうものが実現された姿のイメージがなくて、その過渡期の今だと、教育の中に政治が入るべきじゃないっていう議論がされてしまうのかもしれないですね。

安部敏樹(あべ・としき)

一般社団法人リディラバ代表理事/株式会社Ridilover代表取締役

1987年京都府生まれ。東京大学教養学部卒。同修士修了。東京大学在学中の2009年にリディラバを設立。600名以上の運営会員と150種類以上のスタディツアーの実績があり、4000人以上を社会問題の現場に送り込む。総務省起業家甲子園日本一、学生起業家選手権優勝、ビジコン奈良ベンチャー部門トップ賞、KDDI∞ラボ第5期最優秀賞など受賞多数。

学校現場と外部事業者の役割とは?

原田:YouthCreateも学校現場に入るようになったのはこの1年間で、逆にそれまではYouthCreateを起ち上げて3年間全然学校現場に入れなかったんですよ。最初の3年は3件くらいでした。一方で、この1年で学校との事業は40件くらいになりました。奇跡みたいなもんですよね。

 

安部:学校に入っていくのは大変ですよね。うち(リディラバ)も修学旅行やってるからわかる。主権者教育は学校現場が外に開いていくのを促す効果があるのかもしれない。

 

原田:学校現場に関わっていて思うのは、学校現場の今を知らない外部の人達が、自分たちが受けていた頃の教育体験を元に語っちゃっているなって。昔の自分もそうだったんでしょうけど。それは反省しなきゃいけないと思います。

 

安部:難しいですよね。実際に学校現場にいる人だって今の学校教育の現場の全てを見てるわけじゃないじゃないし。我々だって結構な現場に入っていってるけど、それってアクティブラーニングとか課題解決の教育とかは多い一方、教科教育の現状といったところまで完全に把握できてるかと言われればそこはわからない。

 

原田:そうですよね。教科の仕組みとかは学び直さなきゃいけないと感じています。

 

安部:科目も変わったりするじゃないですか。そういう正しい現状認識が浸透するまでって結構タイムラグがあるし、学校現場のリアルな話を把握できている人って本当に少ないと思います。政治と教育の関係性を議論する中でも現場のわからなさが、議論を進める際の認識の断絶を生んでいる可能性はあると思います。

 

原田:日本の教育ってダメだよねって言われるところとして、現代のこと戦後のことを習わないじゃないってよく言われますけど、実はそんなことないんです。センター試験だって現代のことめちゃくちゃでてますし、その状況で学校も生徒に何も教えないで受験教育をするってこともないわけで、今と昔の教育の差による認識違いで言うとその辺は変わってきてますよね。無論、諸外国より現代社会の教育割合が低いっていう指摘なら話は違うんですけど。こういうとことかって、もっと知ってしかるべきなんだと思います。

 

安部:変化の兆しとしてはありますよね。ただ東大は相変わらず、ほとんど戦後に関する問題は入試に出さない。あくまで終戦まで。そこが変わると結構変わるのかも。戦後は歴史としてみなせるのかというところがまだ議論されている最中だからだろうけど。東大が変われば多くも追随して変わる可能性はあるのかなと。受験科目上、戦後は現代社会として扱うけど歴史としては扱われてないような場合もあります。

 

原田:あとなんでしょうね、私実は、学校現場の出前授業の他の方法も必要だという思いが強くなってきているんですよ。まあ安部と違って組織広げてじっくりっていうタイプでもないですし。組織的に営業かけまくっていろんな学校行くってのはやんないかもしれないです。もちろんオファーもらったら嬉しいからやるんですけど(笑)。そりゃもう学校現場で政治教育ができるっていうのは世の中に浸透したわけで、例えば後輩のivoteもそうだし、色んな団体が入っていったっていう事例は増えたんですよ。学校現場で政治教育やるために外部の団体が入ることができるっていうのがふつうのコトになってきた。となると他のことがやりたくなってきますね(笑)

 

安部:まあ学校現場に政治教育を浸透させるという意味では、一旦ハラケンとしての役割が終わったんじゃないですか(笑)。その環境を作るっていう意味で。

 

原田:政治教育を学校現場に拡げるっていうのは人に任せつつ自分は違うことをやろうかと思っています。

飽きっぽいっていうのも理由なんだけど、学校現場が変わるだけじゃインパクトは不十分で、学校現場が変わったっていうことを社会に認識させることが必要だと思うってのがもっと大きな理由ですね。すごく怖いのは、投票いくべきだよね、政治に関わるべきだよねって思ってくれるようになった18歳19歳が、新社会人になる22-23歳になったときに、いや政治なんてどうでもいいだろ、とか、政治の話なんてするな、って言う大人に潰されかねないっていうのがすごく嫌で。学校現場が変わっていることを社会がもっと知らないと、学校が変わるだけでは社会全体としてうまくいかないと思っています。

 

安部:じゃあ次はそういう活動を?

 

原田:次はやりたいですねー。それこそ今岡山では若者の政治を進めつつも、町の経済団体とかと組んでグループワークやったりとかをしてます。そうやって上の層に対しては、「若者が政治のこと考える場を作りたいんで協力してよ」ってコミュニケーションするんですけど、実際のところはどう考えても若者の方が変わってるから、その実態を大人側に見せるっていう仕掛をしていきたいですね。

 

安部:確かにそれはさっきの教育現場のリアルに関する認識の断絶っていうところにも通じる話ですね。

(原田謙介さん(右)と安部敏樹(左))

 

(次号に続く)

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