選挙権が18歳以上に引き下げられてから初の国政選挙が終わってから約1カ月。全般的に投票率が下がる中、主権者意識を育むことは今後も継続して実施していかなければならない。沖縄タイムスと実現型ディスカッション企業「がちゆん」は、若者への主権者教育を一過性で終わらせないよう、イベント「夏の政治キャンプ」を企画した。キャンプの最終目標は「沖縄県議会への請願書提出」。なぜ、そこに至ったのか。21日から始まったキャンプ1日目の様子を交えながら、リポートする。
■キャンプの意図
7月の参議院選の投票前、沖縄県内では学校や行政主催で「模擬選挙」などの主権者教育が実施された。沖縄タイムスと「がちゆん」も、若者と政党代表者との座談会を企画した。若者が聞きたいこと、疑問に思っていることを質問し、政党の代表者がざっくばらんに答える体裁をとった。約1時間、熱い議論が交わされ、参加した若者からは「参加してよかった」との声があがり、一定の成果があった。
一方で、課題も浮かび上がった。
がちゆんの社長で、琉球大学4年の國仲瞬さんは「政治家と若者が、お互いを探りながら話す状況になってしまっていた。政治家のみなさんに質問と違う話題にもっていかれる事例もあった。うまく答えてもらえず、話すの上手いなぁと思う一方で、もっともっとガチンコで話せる場作りができないかという思いが生まれた」と説明する。
【イベント開催の背景を話すがちゆんの國仲瞬代表取締役社長】
課題を受け、國仲社長と沖縄タイムスの担当者の話し合いの中から生まれたのが、実際に「請願を提出する」というプログラムだった。「主権者」というぼんやりとした言葉や役割を座学で学ぶのではなく、本気で自分の住んでいる地域の課題を知り、改善する行動を取ることで、主権者意識を高めることを今回の目的にした。
「こちらから具体的な提案すれば、議員のみなさんから厳しくも突っ込んでもらえたほうがより一緒に深い議論ができて、よりよい社会を作っていけるのではないか。記者や議員と自分たちが作った請願内容を作りあげる過程で、リアルな話をしてもらえたらなと思っている」
■キャンプのプログラム
キャンプは21日から23日までの3日間、3~5時間のプログラムだ。キャンプの時間以外にも、参加者自らが課題を調べたり、調査したりできる時間を設けたこともポイントだ。
<1日目>
主権者教育や請願の意味を知り、「LGBT」「福祉」「観光」のテーマに分かれてグループで調べ学習。ディスカッションを通して請願書の内容を固める。
<2日目>
グループごとに請願内容をプレゼンし、沖縄タイムスの記者が論理性や情報の適切さを批評。不足点を洗い出し、請願内容を再編集。
<3日目>
現役の県議会議員に請願内容をプレゼンテーション。フィードバックをもらい、質の高い請願書を完成させた後、県議会に提出
■実は知らなかった請願と陳情のこと
請願・陳情は、誰でも提出することができ、県議会は提出された内容が適当だと認められれば、県政に反映される。
キャンプの冒頭、記者が陳情から実際に形になった案件を紹介した。
例に挙げたのは、「全学徒合同石碑の設置」だ。沖縄戦では、学徒隊が旧制中学校など21校から動員されているが、合同の慰霊碑はなかった。卒業生らが合同慰霊碑の設置に関する陳情書を2013年4月に提出。15年12月に県議会の委員会で設置を求める決議案を全委員で提案し、最終本会議で全会一致で可決された。16年6月には翁長雄志知事が糸満市摩文仁に設置する方針を固めている。
16年4月、県庁に新設された「空手振興課」も陳情書の提出からわずか半年で実現した。
参加者の琉球大学3年の比嘉麻乃さんは「陳情、請願という言葉は聞いたことはあるが、実際に自分の声を議会に提出できる仕組みとは知らなかった」。琉球大学3年の平良亮太さんも「聞いたことはあるけれど、事例を聞いて、声を上げれば、本当に実現するんだと知ってワクワクした。政治を身近に感じた」と声を弾ませた。
■参加者の声
キャンプに参加したのは高校生から大学生までの16人。なぜ、参加したのか。事前のアンケートでは「自分の意見や考えを、政治家に直接伝えたかった」「政治を語り合える友達がほしかった」「請願書を出すまでの機会はないので、楽しそうだった」「政治家に会いたかった」「同世代と意見交換したかった」とつづられていた。
そんな意気込みを持って迎えた初日のディスカッション。新聞記事や書籍、過去の陳情書、をめくりながら、課題や解決策を探る。
「LGBT」チームは、就職活動で提出する履歴書の顔写真に焦点を当てた。
「LGBTの人が性別にとらわれず、書類を出せないか」
「それだと替え玉受験が成り立つのでは?」
「免許証などの身分証で本人確認をすれば替え玉できないのではないか」
「福祉」のチームは、課題や解決策を調べるうち、請願の意義についての議論に集中した。
「自分たちの気持ちだけで請願を出していいのか」
「民間で解決できることを行政に提出するのは正しいことなのか」
琉球大学4年の菅原未来さんは「請願をどう捉えたらいいのか、分からなくなってきた。通るための請願を出すのか、それとも素直な気持ちを請願書につづるのか。請願書に対する請願の機能もあっていいのではないかと考えるようにもなった。請願に関して、一晩勉強してきます」と語った。
■2日目の意気込みは?
1日目を終えて、2日目への意気込みを書いてもらった。
「大量にバッシングを受けて、それを実にしていきたい」
「考えたことをしっかりとみんなに伝えたい」
「熱量だけで勝負するのではなく、あり得そうな質問には答えられるように、請願を100%通せるように、自分にできることはやって望みたい」
「自身を持ってプレゼンできるようなアイデアに仕上げる」
さて、あすのキャンプで彼らがどう変わるのか。再度、リポートする。