子どもだけの仮想都市「マーブルタウン」の “教えない”教育とは?

  • オープン記事
  • 教育
  • 子ども
  • 政治
年に数度、数日間だけ現れる仮想都市がある。その都市では市民の起業率が40%を超え、市民の6分の1が選挙へ立候補しているように、市民が自分たちの街を作ることに対して極めて主体的な街だ。更に特徴的なのは、この都市に住む市民がすべて小学生以下の「子ども」だということである。
この記事の読了時間:約11分
2016.10.25
Marble top

起業率も立候補率も著しく高いこの夢の人工都市を作る事業は、マーブルタウンと呼ばれている。マーブルタウンは、愛知県に本拠地を構えるNPO法人コラボキャンパス三河によって、愛知県岡崎市で始まった。

 

マーブルタウンとは

http://kokucheese.com/images/upload/409269_photo1.jpg?20160628155431
2015年に開催されたマーブルタウンの様子

 

簡単に言うと、マーブルタウンとは、子どもたちが形成する「模擬都市」だ。子どもたちはまず住民登録をして、ハローワークで仕事をもらい、公共事業として、警察官、役場、アナウンサー、銀行などに勤める。職業体験をすると、10分間で10マーブル(マーブル:マーブルタウンのお金の単位)の給与が支払われる。

 


銀行とハローワークに大挙する子どもたち

 

給与の10%は「税金」として徴収される仕組みになっている。子どもたちから候補を募って、マーブルタウンの長を決める選挙も実施され、徴収された税金は選挙で選ばれた「王様」が新しい公共事業を興す際に使われる。

 


投票率100%の国王選挙の様子

 

また、子どもたち自身で自治を行いまちづくりを体験するために、マーブルタウンにはスタッフ以外の大人は入場禁止である。子どもたちの行動に一切の制限はなく、自由に発想して新しい職業を作ったり、店舗を出すこともできる。店舗での販売物は自作のものであり、商品開発や資金の獲得まで子どもたち自身が考える。このようにして、子どもが政治や起業に奮闘する人工都市が形成されていく。

 


マーブルタウンに来た子どもたちの活動フロー

 

自分たちで街を形成する体験をとおして、子どもたちの主体性、協調性、創造性といった「生き抜く力」を育むことが、マーブルタウンの目的だ。そして、将来の日本を担う子ども達が夢や希望を持ち、その実現のためなら困難にでも立ち向かう力を育むことをビジョンとしている。

 

 

岐阜県に導入された「ぎふマーブルタウン」

マーブルタウン事業は、現在では担い手が広がり、NPO法人だけではなく様々な組織が主体となって開催している。岐阜県でマーブルタウンを開催するために2016年に市民団体としてぎふマーブルタウンを立ち上げた人物が、代表を務める住田涼さん(以下、住田)だ。

 


住田涼(すみた・りょう)(※写真右)
1994年大阪府生まれ。岐阜大学に通う傍ら、2016年より市民団体「ぎふマーブルタウン」の代表を務める。地域の子どもと大人が互いに学びあえる「共育都市」の達成を目指している。

 

 


市役所の様子。危険防止のために原則走るのは禁止されている。

 

住田が岐阜にマーブルタウンを作ろうと思ったきっかけは、自身がマーブルタウン事業にスタッフとして参加した際の経験だという。

 

彼がかつて愛知県で開催されたマーブルタウン事業にスタッフとして参加した際、町の警察官として会場内で走っている子を逮捕しようとしている一人の子どもAに出会った。当時のマーブルタウンでは街を走ったら投獄されるという条例があり、子どもAは警察官として違反者を逮捕する役割だった。

 

C:\Users\圭哉\AppData\Local\Microsoft\Windows\INetCacheContent.Word\unspecified (1)
街の治安を守る頼もしい警察官たち

 

子どもAは警察官として街の治安維持のために精力的に活動していたが、業務をこなしていく中で、なんとその子が走っていたことをとがめられて、彼自身が逮捕されてしまったのだという。

 

その後、子どもAがどうするのかと住田が興味深く見ていたところ、何故かその子どもはカメラマンに転職した。はじめは合点がいかなかったが、観察を続けていると、走っている子どもを写真にとって警察に渡し、間接的に違反者を逮捕し始めたことが分かったという。警察官というやり方にとらわれることなく、柔軟な考え方で街の治安維持に貢献を始めたのである。

 

また、ある子どもBは当時銀行員を務めていた。絶え間なく来る顧客の対応をしている中で、街で活動していた他の子どもから「新しい事業を始めたいが、お金が足りない」という相談が銀行に持ち込まれた。

 

マーブルタウンには借金という制度はなかった。銀行員の仕事は忙しく、イレギュラーなお願いは断ることもできた。しかし、その子は誰に誘導されるというわけでもなく「借金」制度を作り、お金が足りない子どもたちの支援を始めた。更に驚くことに、その後自発的に預金のシステムまで生み出したという(※1)

 


マーブルタウンの世界でも銀行は激務です

 

それを見た住田は、このような自由な発想が育まれる都市、ルールに縛られることのない自由な都市に感銘を受けたという。マーブルタウンは、自分たちが作って行く街。そもそもルールに合わないからあきらめるのではなく、どうやったらできるようになるかを考える精神があった。

 

マーブルタウンの内部では、スタッフはあくまで補佐に回り、口出しも手出しもしない。失敗してもいいから子どもたちがやることを見守るというスタンスを貫いている。これは、大人が手出し口出しをすると、子どもが成長する機会を奪ってしまうのではないかという反論に基づく。このマーブルタウンという機会をやってみたいし、広げてみたい。住田はマーブルタウンへの参加を通じてそのように感じたという。

 

※1 ちなみにその後、借金制度を考案したやり手の銀行員が街を回って「借金しませんかー?」と叫んで回っていたのは笑い話である。

 

 

「挑戦」を重ねて未来を描く子どもたち


がっぽり儲けました。中には起業して1500マーブルを稼ぐ猛者も…。

 

この街の原動力は、子どもたちの「ああなりたい」「こうしたい」という衝動である。子どもたちが自由に描いた「やりたいこと」が挑戦を生み、街が自走していく。はじめて岐阜でマーブルタウンを行った当初、選挙の立候補者も起業する子もほとんどいなかったが、日を重ねるごとに、また回を重ねるごとに何倍かに増えていったという。こうして挑戦が連鎖していき、様々な挑戦とアイデアが結晶する場が作り出される。

 


子どもたちが自分の手で作って販売した商品

 

中には、マーブルタウンへの参加が人生を変えた事例もある。かつてマーブルタウンで自分自身の手で映画館を開演した子どもCは、現在専門学校を目指しているという。その子の映画館の取り組みは以下のようなものだった。

 

子どもCは自分で撮ってきた動画を編集し、フィルムを作成。光が入らない空間を作ることで、マーブルタウンの中に自前の映画館を作った。子どもCは動画の編集ソフトを持っていなかったが、そこで諦めることはなかった。自分たちで撮った映像を流しながらBGMを流し、それを丸々動画に収めることで立派な映画を作り出したのだ。これは、できるかできないかで物事を見るのではなく、どうしたらできるのかを考える精神があった事の表れだろう。

 


創意工夫を凝らして映画館を開業した小学生

 

 

挑戦と失敗を許容する「教えない教育」


スタッフに指示を行うハローワークの従業員

 

このような自発性を生み出しているのは、マーブルタウンが掲げる「教えない教育」だ。マーブルタウンでは、子どもたちが自分で何かを生み出す「余白」を多く残すことで、成長の機会を増やしている。子どもたちの行動を制限するようなマニュアルは、基本的には存在しない。誰からの指図も受けず、自分自身の自由と責任で遊べる環境が整備されている。

 

その背景にあるのは、「挑戦と失敗を許容する」というマーブルタウン独特の精神である。成功も失敗も自由に許された空間があるからこそ、子どもたちが自分の頭で考えて、自分たちで選択をすることができる。それゆえ、子どもたちはのびのびと失敗を恐れずに挑戦を繰り返すことができる。

 

マーブルタウンの持つ意義とは、将来の日本を担う子ども達が「夢や希望を持ち、その実現のためなら困難にでも立ち向かう力」を養うことである。子どもたちが自分から与えられた役割を飛び出して試行錯誤を重ねる経験によって、生きる力を育む素地が形成されていく。

 

大人が具体的な指示を出して手を貸すことは、困難な状況を打破するための即効薬になる一方で、子どもたちの考える余地を奪ってしまう。子どもたちに解を与えるのではなく、試行錯誤の末に自分で解を見つけることのできる「環境」を提供することこそが大切である。住田は、成長とはこれまでにない新しい解を生み出すことだと感じているという。

 

 

街ぐるみで子どもを育む


マーブルタウン国民の保護者の方々

 

そんなマーブルタウンの事業にも課題が存在する。子どもたちが高揚感を感じるマーブルタウンも、一日限りの特異体験であっては意味がない。究極的には子どもの挑戦を阻害しない環境に子どもが常日頃から触れる必要がある。

 

しかし、マーブルタウンが子どもに干渉できるのはどうあがいても都市が現れる数日間のみである。真に達成したい世界を実現するためには、親の理解と協力が不可欠だ。各家庭でもマーブルタウンのような「失敗と挑戦を許容する」環境が整っていることが望まれる。

 

ぎふマーブルタウンはそのような課題に対応するため、「マーブルタウン・ウィズ」という事業の実施を目論んでいる。マーブルタウン・ウィズとは、保護者がスタッフとして参加できる親子一体型のマーブルタウンである。

 

マーブルタウンでは、子どもへの手出し口出しを避けて「失敗と挑戦に対する許容」を保障するため、保護者進入禁止のルールが設けられている。マーブルタウン・ウィズには、マーブルタウンで生まれた挑戦の空間を各家庭に根付かせるために、保護者にもマーブルタウンの提供者と同じ想いを持ってもらう意図がある。

 

 

岐阜を「子どもと共に育つ街」へ


この中から未来の総理大臣が生まれるかもしれません…。

 

住田は語る。ぎふマーブルタウンが目指すのは、「共育都市」であると。つまり、子育てを地域ぐるみで行い、子どもが町全体の資本として認識されている、そんな社会である。

 

たびたびニュースで話題になるが、日本社会には子どもを連れて電車に乗ると煙たがられ、子どもが騒ごうものなら怒られるという環境が存在する。また、日本の男性育児休暇取得率は3%にも及ばないという話もある(※2)。親にも子どもにも優しくない社会が存立している背景には、子育てに関わったり、子どもに触れている人が実はそんなに多くないことがあるのかもしれない。

 

住田は、今の日本では子育て=苦行という認識が強く、子育ての楽しい面や好作用は、往々にして見落とされがちだと言う。子どもたちが作り上げるマーブルタウンは、子どもたちが自分の足で歩けることの証明だ。親が自分の子どもを信頼し、いい意味で「放置」できることは、親子の信頼性を育むうえで大切だがある。

 

そして、自分の足で歩く子どもたちを、親だけではなく町全体で育むことも大切だ。子どもに触れることの楽しさを知る人が町に増えていくことが、必要とされているのではないだろうか。町全体で子育てを行う環境を広めていくことも、マーブルタウンの目指す未来の範疇だ。

 

住田は語る。子どもとは「未来の象徴」である、と。子どもは私たちが生きていない未来にも生きて、世の中を変えていくことが出来る。子どもたちの生きる力を育むマーブルタウンの試みは、私たちの望む未来を手繰り寄せる。

 

もしかしたら、マーブルタウンで挑戦と失敗を繰り返した子どもが、理想的な未来を開拓していくのかもしれない。ぎふマーブルタウンは、そんな可能性を秘めた子どもたちをサポートするボランティアスタッフを募集している。次回のぎふマーブルタウンは、2017年3月20日(月・祝)に開催される。公式Facebookより情報が発信されているので、興味のある方はご覧いただきたい。

 

※2 厚生労働省の2015年度雇用均等基本調査結果によると、男性の育児休業取得率は2.65%であった。

 

***

 

【ぎふマーブルタウン2017春(ドリームマーブルタウン2017春)】

日時:2017年3月20日(月・祝)
場所:ドリームシアター岐阜
https://gikyobun.or.jp/dtg/access/
※参加費は無料。
※当日飛び込み、途中入退場も可能。
※会場はスタッフを除き、子どものみ入場可能となります。
※お昼ご飯は各自でご持参をお願いいたします。
※写真撮影を行います。ウェブサイトなどへの掲載をする場合があります。ご了承いただける方のみご参加ください。
お問い合わせ等、ぎふマーブルタウンに関する情報はHPをご覧いただけると幸いです。

http://marbletown.wix.com/gifu

 

【運営団体】


市民団体ぎふマーブルタウン
HP:http://marbletown.wixsite.com/gifu
Facebook:https://www.facebook.com/marbletown.gifu/
Twitter:https://twitter.com/marbletown_gifu

Facebookコメント

Ridi

リディラバ メディア事業部

リディラバ メディア事業部
お問い合わせ:media@ridilover.jp

自分用にメモをつける


意識調査

実施中 「豊洲に移転し築地再開発」の方針、賛成?反対?

8
東京都の小池知事は、市場を豊洲に移転したうえで、築地を再開発して市場機能を確保しながら、5年後をめどに食をテーマとした一大拠点とする基本方針を表明しました。あなたはこの方針に賛成ですか?反対ですか?
合計: 4

Facebookページにぜひ「いいね!」をお願いします!「いいね!」を押すと、TRAPROの最新記事が受け取れます