空から資源が降ってくる、すみだの街

雨水市民の会インタビュー
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東京都墨田区は雨水活用のモデル地区として全国的に注目されており、町中を少し歩くだけでもそこここの家庭に雨水をためる貯水タンクが設置されていることが見て取れる。この度インタビューさせていただいたのは、墨田区に事務所を構える「雨水市民の会」の活動メンバーの高橋さん、笹川さん、柴さんの3名である。
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2016.11.21
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Photo:http://www.social-action-ring.org/detail/detail-415/

                         
高橋朝子(たかはし・あさこ)氏     笹川みちる(ささがわ・みちる)氏   柴早苗(しば・さなえ)氏 
副理事長/広報委員長       理事                    理事
 

雨水市民の会とは
東京都墨田区において日本初の雨水に関する国際会議が開催された際の実行委員が母体となり、1995年に誕生。2006年にNPO法人化された。近年、地球規模で大洪水、大渇水が頻発しており、日本でも大地震や大津波で水道が大きなダメージを受ける事態が起きている。また、2015年時点では、世界で6億6300万もの人たちが安全な飲み水を得られていない。雨水市民の会は、雨を活かすことによって人類が直面する水危機を解決していきたいと考える団体である。生命の源である雨に学び、感謝し、雨を活かすことが当たり前になる社会を目指し、雨活学習(雨の環境学習)プログラム、雨の絵本ひろばなどの事業のほか、雨水ネットワークやバングラデシュ・スカイウォータープロジェクトへの参画などの活動を実施している。

 

 

雨水市民の会とは


http://amamizu.info/archives/1858

 

-「雨水市民の会」では、雨水資源を活用するといった活動を行っているとお聞きしています。はじめに、どのようにしてこの団体が生まれたのかお伺いしてもよろしいでしょうか。

 

高橋/私たちの活動拠点である墨田区で、1980年代に都市型洪水が頻発しました。都市型洪水というのは、大雨などによって下水道があふれてしまうことで発生する内水氾濫(※1)のことです。都市化が進んで地表面が建物やコンクリートで覆われることで地面にしみこまなくなった雨水が、短時間に集中して下水道に流れ込んでしまうことによって都市型洪水は発生します。

 

墨田区は海抜0m地帯(筆者注:満潮時の平均海水面を0mとしたときに、標高がそれ以下の土地)です。このような地域では、雨水をくみ上げて川に流すポンプ場を整備するなどの対策がしっかりしていないと、集中豪雨や台風による大雨の際に水が溢れて洪水が起こってしまいます。

 

洪水が起きている一方で、実は上流にあるダムはカラカラ状態ということも起こりました。遠くの水源ダムに雨が降らなければ、都市部は水不足になってしまう。だから墨田区の住民は節水をしなければいけなかった。けれども、雨水という形でこんなに足元に水があるのに、水道は節水しなければいけないなんて、矛盾していると思いませんか。それならば、雨水を利用できる方法はないかということで、当時墨田区の職員だった村瀬(筆者注:当時の雨水市民の会事務局長)(※2)が雨水市民の会の前身を作りました。

 

当初は、都市型洪水の対策のために個人宅にタンクを設置し、地域全体で雨水をためることで、雨水が一挙に下水道に流れ込むのを防止しようと考えたわけです。実際に雨水活用をやってみると、雨水は植木の水やりなどに有効に使え、防災にも役に立ちそうだということがわかってきました。雨水は、非常時には防火用水やトイレの流し水、更には沸かせば飲料水として使用できます。都市型洪水の抑制と節水のために始まった雨水活用は、都市型洪水の問題と非常時の水源の問題を一挙に解消する手段になったということです。私たちの会や墨田区の普及活動もあって雨水タンクは一般化し、今では町中でタンクを見ることができますね。

 

※1 内水氾濫とは、市街地に降った雨が雨水処理能力を超える、あるいは川が溢れかかっていてポンプで排出できずに街に水が溢れることで起こる洪水。それに対して、外水氾濫とは、川の水が堤防から溢れる、あるいはそれによって川の堤防が破堤した場合等に起こる洪水。

※2 

村瀬誠(むらせ・まこと)
1949年3月22日生まれ。墨田区職員として在職中から雨水利用を推進。1994年の雨水利用東京国際会議では実行委員会事務局長を務める。都市の雨水利用プロジェクトや、バングラデシュにおける雨水タンク設置を進めている。(greenz.jpより一部引用) 

 

雨水タンクの町、すみだ

 

-墨田区って各家庭に雨水タンクがあったりと、ちょっと特殊な街ですよね。いつ頃からこうした仕組みができたんですか?

 

高橋/墨田区HPでもある程度紹介されていますが、1982年、両国国技館建設の際に雨水利用が申し入れられたように、1980年代にはすでにこうした取り組みはありました。国技館の地下には1000トンの雨水を貯められるタンクができ、トイレや冷房や散水のために雨水が利用されています。そして1988年、いまから30年位前、まちづくりと防災を考える地域住民グループと協働で、都の助成金を使い、地域の防災と雨水活用を結び付けた路地尊(ろじそん)(※3)ができました。その後の1994年に雨水利用をテーマにした国際会議「雨水利用東京国際会議」を開催したことで人がもっと集まってきて、墨田区だけではなくもっと国内外に雨水活用を広げていこうということになりました。墨田区の雨水活用の取り組みは世界にまで広まり、バングラディシュでも雨水タンクが活用されるようになっています。

 


※3 墨田区の20カ所以上の路地で見ることができる「路地尊(ろじそん)」は、地下に貯めた雨水を手押しポンプで汲み上げて使う。貯めた雨水は、草花や野菜への水やり、子どもの水遊び、災害時の水源などにも使われている。(墨田区HPより)

 

都市化によって崩れる水の循環

 

笹川/今は多くの方が都会的な生活を行っていて、普段の生活の中で自然と関わる機会が中々ないと思うのですが、雨というのは都会の生活の中に入り込んでくる自然の一部なんだという考え方もできますよね。雨を入口に、自然を身近に感じて共感してもらえるということもあるんじゃないかと思っています。

 

実は、日本人のように毎日天気予報を見てお天気について気にしている国民というのは世界的に珍しいそうです。国によってはこの時期は雨が降る、この時期は降らないとはっきりわかれているところもあります。日本人は知らず知らずのうちに雨を意識しているから、きっかけを示すことさえできれば、雨について考えたり雨を水資源と認識することができると思います。そのようなきっかけを示すのが私たちの活動の柱になっています。雨って、すごく切り口が多いんです。

 

-なるほど。具体的にはどのような切り口があるのか、少しだけ教えていただけますか。

 

笹川/雨の役割を考えた時に、水資源としての側面があります。例えば雨が降ると雨水が地面に浸み込んで地下水になります。あるいは、降った雨が蒸発することによって、空気が湿っていきます。そうすると、気温が少し下がり、気候の緩和のような作用が発生します。それとともに、雨の蒸発には水資源をもう一度空に返すという意味合いもありますよね。これが水資源の循環の構造です。

 

ところが、今は都市化がどんどん進んでいって、地表の状態と雨の関係が変わってしまっています。コンクリートやアスファルトで地表面や道路が覆われると、そこに落ちた雨は下水道の管路でほかの場所に流しているんです。一方で、都市部に人口が集中することで大量の生活用水を消費するようになり、今までとは全く違う単位の大規模な水の消費が行われます。流域外から大量の水を運んでくることになり、都市の中の水の循環が滞ってしまいます。その結果、カラカラに乾いた都市が出現します。一大都市東京は、群馬や栃木など遠くのダム群からも水を運んできています。

 

今はこういった状況ですが、もしかしたら東京に降った雨をもう少し活かして、十分しみこませて地下水を豊かにし、溜め込んで処理すれば、もう少し手間なく上水道を手に入れられるかもしれない。どうせ川の水を処理して上水道にしているんです。地域内の水資源を活用することは、昔は当たり前でしたが、今はなくなってしまっている時代です。雨水市民の会は、私たち自身が水の循環を意識する啓発から始めて、私たちが使っている水がどこから来てどこへ流れているのかももう少し考えるための活動をしています。

 

地域内で水循環が起こると、町全体の水の巡りがもう少し健全化します。墨田区の雨水活用の事例は、世界的にも都市の新しい形として注目されています。大地を潤した水が緑を養い空に戻るようにしないと、都市部は乾燥してヒートアイランド化が進みます。

 

大量のエネルギーを使って都市の水を得るよりは、自然をうまく活用して水の循環を再生する、それに協調する形で都市の形を見直したほうが長い目で見たらいいだろうと思われます。

 

すみだに根付く雨の意識

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-中々、雨が降らなくなるデメリットって直観的にはわからないですよね。僕なんか、雨が降った時はちょっと嫌だなって思うくらいの感覚でした(笑)。

 

高橋/海で水蒸気が蒸発して雲になり、山にあたって雨になって川になって、都市に流れてくる…といった大きな水循環と同じように地域ごとの水循環もある。私たちが地域の水循環を理解することが大切なんです。

 

生きている以上は、水を大切にしなければいけない。人間だけではなくて様々な生物が水を使っていることを理解しなければならない。どうやったらみんなが理解して水を使っていけるかや、どういう仕組みがいいのかをこれから考えていきたいですね。規模が大きくなると、旧来型のシステムのままだとどこかでおかしくなってくる。都市の形も変化した今、どうすればいいのかをもう一度考え直さなければいけないのでは、と思っています。

 

-循環系が良くない状態に陥っているのは、何が原因なのでしょうか。

 

柴/気づき(awearness)の問題が大きいと思います。水資源や水循環と言っても、それって何か見えなくて具体的によくわからないじゃないですか。日常生活ではそれらを意識せずにいても何ら支障がないため、自分たちの与り知らないところで自然現象として大規模に起こっていることへの気づきがない状態なのだと思います。

 

遠いダムから水を持ってきて、使った水をきれいにして下水道に流すだけというのは、一方通行で循環になっていない。日本だけじゃなくて世界につながる話もあって構造は複雑ですが、私たちはこれからも水と関わり続けていくし、他の生物と共生していくためにも、人間の活動がどうあるべきかを自律的に考えていかなければいけません。効率や利便性を重視した結果、自然自体の循環に沿わないことを強引にやってしまって、今はそれを当たり前と思ってしまっている状態なんです。

 

例えば、水道水がある一方でペットボトルに詰められた海外の水がコンビニに並んでいるものを見て、どうしてこれがここにあるかを考えてみると、もうちょっとほかの考え方があっていいのではないかと考えられますよね。様々な意識や視点を持ってもらうことが大切です。

 

-なるほど。貴重なお話をありがとうございました。最後に、私たちにできることは何だと思いますか。お教えいただいてもよろしいでしょうか。

 

高橋/自宅に雨水タンクを持っている方は、雨水が入っている音を聞いて「明日使えるな」「次はいつ雨が降るかな」などと降雨に想いを馳せます。雨水活用がそうしたちょっとしたきっかけになっていけばいいなと思っています。タンクを手作りで作っても水が入る量はせいぜい45Lとささやかですが、大切なのは作った人の意識が変わることです。次の雨が楽しみだと天気を気にしたり、雨音や雨の風情が楽しみになったりするだけでも随分と違う。私たちの活動を、雨水活用に関わらず何か意識が変わって考えるきっかけにしてほしいですね。意識を持つところから始まって、地域全体の循環を考えてほしいなと思います。

(聞き手・太田圭哉)

 

【協力団体】

雨水市民の会
団体HP:http://www.skywater.jp/

 

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