「認知症ケアと恋愛は似ているんです」現役介護福祉士が考える認知症ケアのお話

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この記事の読了時間:約8分
2016.12.27
          2016 12 30 4.45.19
Photo:リディラバ所蔵
話し手:川上陽那(かわかみ はるな)
介護福祉士2年目。都内の福祉老人ホームに勤務しながら、認知症ONLINEで記事を執筆している。

認知症患者は常に症状がでているわけではない

ーー川上さんは普段どのような活動をしているのでしょうか?

川上:私は現在、都内にある福祉老人ホームで認知症の症状があったり、身体介護が必要なじいちゃん・ばあちゃんと一緒に生活したりしながら、「認知症ONLINE」というメディアで自分の体験を発信しています。

 

ーーまずは、福祉老人ホームで暮らしている認知症のじいちゃん・ばあちゃんはどのような様子なのか教えてください。

 

川上:まず認知症とは、病名ではなく、脳の機能に障害が起こり、生活に支障が出る状態のことを言います。症状でいったら、物忘れや妄想だけではなく、幻覚や幻聴もあります。症状は、人によって本当に様々です。

 

ーーそのような症状の人にはどのような介護をするのですか?

 

川上:私は認知症の症状がでている状態から本来その人が持っている穏やかな心理状態に引き戻すことを意識して関わっています。例えば、ある ばあちゃんが机をバンバン叩いていたとき、「〇〇さんこんにちは」と私が声をかけました。そしたら、そのばあちゃんは穏やかな表情に戻って、「あら、こんにちは」と返事をして、机を叩かなくなったんですよ。これが本来の状態に戻った瞬間です。

 

毎日、そんな体験をしていくうちに、認知症は常にその症状が出ているわけではないことに気づきました。なので、じいちゃん・ばあちゃんが何を考え、何がしたくて、その行動をしているのか理由を探ることが必要です。私はそれを実行することが介護福祉士の存在意義であると思っています。

 

認知症の誤解を生む3つの壁

ーーさきほど、じいちゃん・ばあちゃんにインタビューしているとおっしゃっていました。なぜ記事を執筆しているのでしょうか?

 

川上:「認知症」に対して間違ったイメージを認知症と関わりのない非当事者が持っているからです。先ほども例で示したように、認知症のじいちゃん・ばあちゃんは常に認知症の症状がでているわけではありません。

 

ーーなぜそのような間違った思い込みが浸透してしまうのでしょうか?

 

間違った思い込みを持ってしまう理由は、3つあると思います。1つ目は「認知症」というワードをインターネットで検索したとき、認知症の種類や症状の説明をするサイトページが最初に出てきてしまうからです。認知症に関して、知るべき情報というのは、その種類や症状ではありません。この場合、知るべき情報というのは、認知症のじいちゃん・ばあちゃんの様子や本来の姿、現場で実際に働く介護施設職員の声だと考えています。そのような声を聞かないと、認知症に対して、間違った思い込みを抱いてしまうかもしれません。

実際に「認知症」をGoogleで調べてみました。確かに、認知症の症状を説明するサイトが目立ちますね

 

2つ目は、「認知症のじいちゃん・ばあちゃんの話や介護したときの体験談が世の中に出るべきだ」と考えている介護施設職員が少ないからだと思います。私の職場でも給料が少ないといった声はあがっていますね。その声をもとに、新聞やネットの記事などでは「介護施設職員の給料が少ない」という問題を取り上げてくれました。メディアの情報を聞いた認知症と関わりのない非当事者たちは、一般的な介護福祉業界のイメージを「給料が低い」と認識するようになったと思います。しかし、これでは認知症のじいちゃん・ばあちゃんの話や介護したときの体験談は二の次になってしまい、なかなかそれを問題視してくれません。

 

3つ目は、「自分のじいちゃん・ばあちゃんが認知症と診断された」というように家族が認知症の当事者になる経験がないとそもそも興味を持ってくれないからです。正直、興味を持ってから認知症を調べるのは遅い。認知症の情報収集に時間がかかりますし、インターネットで検索した場合、情報が溢れすぎていて、何を信じたらいいのか わからないという状態に陥ります。それだけではなく、認知症の早期発見によって症状を遅らせることが可能な場合や不適切な関わり方によってが悪化してしまう場合もあります。なので、あらかじめ認知症に関心を寄せることは必要です。

認知症の誤解を埋める魔法のコトバ「きゅんきゅん」

ーー今までの話を通して、認知症の当事者と非当事者の間に認識のズレがあることが分かりました。川上さんはその隔たりをなくすために、認知症のじいちゃん・ばあちゃんをインタビューしてるのですよね。

 

川上:認知症に潜む誤解とじいちゃん・ばあちゃんのありのままの姿を伝えたい。私はそれを達成するために「きゅんきゅん」というキーワードを使ってインタビュー記事を執筆しています。

 

実際に執筆された記事の様子です。なんだかほっこりしますね。

 

ーー色々とツッコミどころがありますね。まず「きゅんきゅん」にはどのような意図があるのでしょうか?

 

川上:恋愛という入り口から認知症に親しんでほしいのです。

 

ーーなぜ恋愛を切り口にしたのでしょうか?

 

川上:2つあります。1つ目は、私が恋愛をしていたとき、認知症ケアに近いと感じたからです。例えば、認知症の患者を入浴介助に誘うとき、その人がどのような大きさのお風呂に入っていたのか、どういう温度が好きなのかを考えながら介助します。恋愛もこれと同じです。好きな人をデートに誘うとき、相手がどんなことが好きで趣味が何なのか考えるじゃないですか。相手を知ろうとすることが似ているのですよね。

 

2つ目は、誰もが経験する恋愛ならば、興味を持ってくれるかもしれないからです。恋愛をを切り口にすることで、先ほどあげた3つ目の問題である「認知症に対してなかなか興味を持ってくれない問題」が解決すると思います。誰もが経験したことある恋愛なら、非当事者でも自分事化しやすいかなと。

 

ーー恋愛が認知症ケアに似ているという発想は面白いですね。川上さんはインタビュー記事を執筆していましたが、どういった内容を書いているのですか?

 

川上:認知症のじいちゃん・ばあちゃんの中には、はなればなれ で暮らす夫婦がたくさんいます。そんな2人をつなぎ、私がインタビューをして、夫婦の思い出や円満の秘訣を記事にして残しています。じいちゃん・ばあちゃんは認知症になったとしても、愛する旦那さんや奥さんのことをはっきり覚えています。夫婦の恋愛話はじいちゃん・ばあちゃんの関係を再確認するカギになるような気がしていて。

 

実際、インタビューを通して、「ずっと2人でいる時間が長くて、ストレスが溜まっていた。こうやって若い人たちが間に入って、話を聞いてくれるということが楽しい」と私に言ってくれました。こういうふうに考えている夫婦って結構いるんじゃないかと個人的に思いますし、インタビューを受けて楽しいと思ってくれることは嬉しいですね。

 

認知症になっても安心して暮らせる社会をめざして

ーー川上さんが記事を書くときのモチベーションはなんですか?介護施設職員の仕事だけでも相当ハードなはずですよね。

 

川上:世の中の人の考え方とズレがあると思っているので、私が伝えています。私がやっていることは自分で見たことや感じたことを周りの人に発信しているだけです。特別なことはしていません。

 

ーーその中で心境が変わったことはありますか?

私も皆さんと同じように福祉老人ホームで働く前は認知症に対して、重いイメージを持っていましたし、「自分のじいちゃん・ばあちゃんは認知症になってほしくない」と思っていました。ですが、自分が福祉老人ホームで働くようになって、認知症の症状が出ているじいちゃん・ばあちゃんを見ているうちに「認知症ってどうでもいいや」と思えてきました。じいちゃん・ばあちゃん自身を知ることが大事だということに気づいたので。

 

そうすると仕事のストレスの感じ方がだいぶ違ってきました。「この業界はストレスがかかる」とよく言われますが、いまは全然ストレスを私は感じていなくって。こんなんでいいのかなと思うくらい気楽に働いています。

 

ーーなるほど。記事を通してどのようなイメージに社会が変わってほしいですか?

 

川上:じいちゃん・ばあちゃんが認知症になっても大丈夫というイメージかな...そのためには認知症に対する正しい知識が必要になります。たとえば、世の中の人から「あのおばあちゃんまた外を出歩いているよ」とか「また同じこと言ってるよ」と思われるのが嫌だから、福祉老人ホームに預けると思うんです。本当は自分で介護してあげたいんだけれど、世の中からそういう風に見られるのが嫌だと感じて預ける人もいる。もし認知症に対する正しい知識を持ち合わせていたなら、家族も気持ちが楽になるでしょう。患者本人も家族とはなればなれになって暮らすことをいいとは思わないので。認知症になっても大丈夫という理解が深まれば、家族も地域の人に助けて!って言えるし、本人が自分の居場所に住み続けることができると思うんです。

 

ーー認知症との関わりがない人に対して、きゅんきゅんというコンセプトを用いてアプローチするのは興味深かったです。私もおじいちゃん・おばあちゃんの恋愛学と同時に認知症学んでいきたいです。本日はありがとうございました!

 

川上さんは「認知症ONLINE」にて様々な記事を書いています。興味のある方は以下のリンク先をクリックしてみてはいかがでしょうか?

https://ninchisho-online.com/archives/author/haruna_kawakami/

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